おはようございます。布施淳です。
先日タクシーに乗った時、運転手さんが「タクシー運転手は病気になりやすい」というような趣旨の話をしていました。
循環器医として、激しく同感しました。
中年タクシー運転手が、心臓病になって入院してくるケースは非常に多い印象があります。
なぜタクシー運転手が心臓病になりやすいのでしょうか?
思いつくものを挙げてみました。
① 運動不足・身体活動不足
② 座位の時間が長い
③ 夜勤のため睡眠時間が不規則
④ 食事が不規則
⑤ 外食が多い
⑥ 喫煙者が多い(印象)
⑦ 接客のストレス
⑧ 安全運転のストレス
⑨ 給料が安い
運動不足・身体活動不足が、心臓病をはじめ様々な病気の原因となることはもはや常識です。運動不足のみならず、座位の時間が長いということでも病気になりやすいことが示唆されています→参考文献。自動車の中でずっと座位の姿勢でいるタクシー運転手はその悪影響を被りやすい職種と言えます。エコノミークラス症候群にも気をつけなければいけません。
睡眠も健康維持のためには欠かせないものです。最低6時間の睡眠時間を確保したいですし、規則正しく夜間に睡眠をとることが推奨されます。理想は22時〜2時の睡眠ゴールデンタイムを含めて眠りたいものです。夜間業務のあるタクシー運転手がこれを実現することは難しいと思われます。
睡眠ゴールデンタイムに関連する記事はこちら。
生活が不規則ですから、食事も不規則になりがちです。真夜中に取ることも多いでしょう。夜間はもちろん日中も、仕事中の食事は高率に外食になります。外食は総じて塩分が多いです。塩分過剰摂取につながります。車を路駐しつつ食事をとることもあるでしょう。比較的短時間で食べられる食事を選択する傾向があると思われます。結果、ラーメンや丼ものなどが多くなりがち。野菜不足になり炭水化物、脂質過多で、肥満を助長します。動脈硬化も進行しやすいはずです。
最近は禁煙タクシーが主流になってきましたが、それ以前では車内という狭い空間の中で能動喫煙・受動喫煙に晒されている極めて極悪な環境でした。タクシー禁煙化だけでも、運転手の健康状態向上に大きく貢献すると思われます。禁煙化が進んでも、休憩中に路上喫煙をしている運転手もよく見かけます。タクシー業界の喫煙率が高いと推測されています。明確なデータは存在しないようですが、例えば、この程度のデータはあります。ちょい古いのと、元データがありませんので信憑性は今ひとつですが、ざっくりした傾向は一致していますので当たらずとも遠からずと解釈できそうです。
日本の喫煙率はここ10年ほどで40%→30%くらいに減少傾向です。それに比するとタクシー運転手のそれは相対的に高いと推測せざるをえません。
そして、様々な見知らぬお客とのコミュニケーションもストレスの一因となる方が少なくないと思います。タクシー運転手は圧倒的に男性が多い(女性は約2%)です。男性は会話が得意でない人が多いです。→ 参考記事 苦手なことに日々接するのはやっぱりストレスかと推測します。夜間乗せる酔っ払いの乗客なんか、違った意味でストレスでしょう。
さらに、常に安全運転を心がけなくてはいけませんので、これまたストレスです。特に、都内の夜間の運転などは大変でしょう。繁華街でしたら尚更です。
日々のストレスは、精神的、肉体的ダメージを蓄積していきます。
タクシー運転手の給料は高くありません。
所得と平均寿命、健康状態には相関がある、ということは多くの研究で指摘されています。例えば、この本でもその点が言及されています。
この相関には、様々な要素が絡んでいることでしょう。生活習慣や食事、運動、教育、健康リテラシー、、、全て包括している要素かと推測されます。そして、例えば高い喫煙率の高いコミュニティーに属していると、自分も喫煙者になる確率が高い、という面もあります。
循環器医として、最も病気になりやすそうな人をイメージするとすれば、「タクシー運転手、50代男性、独身独居」です。
独身独居と健康の関係については、以前触れましたね。
健康の鍵は「つながり」
http://junfuse.com/140723lonliness/
上記の項目を、ひとつひとつ是正することで、タクシー運転手の健康管理は向上するものと思われます。タクシー会社の産業医の役割も重要と思います。