こんにちは。布施淳です。

 

電気屋を営んでいる男性。床にある配線の調整等しゃがんで作業することが多いとのこと。その男性が、しゃがむと胸が苦しくなるので、暫く仕事を休んでいると言います。話を聞くと、歩行時も同じように胸が苦しくなり、立ち止まってしまうと言います。

 
このように、歩行時、特に坂道や階段などで胸が苦しくなったり、痛くなったりし、立ち止まり安静にすると数分で改善する、、、、、これは典型的な狭心症の症状です。心臓を栄養している血管(冠動脈)が狭くなることにより、心臓への血流・栄養を十分に供給することができなくなります。歩行など、運動をすることで、心臓は忙しく働き、より多くの血液・栄養を必要とします。しかし、それに応じた血液が供給されず、心臓は血液不足・栄養不足となり、悲鳴をあげます。それが狭心症です。安静にしていると胸部症状は出現しないことが通常です(病気が悪化して血管が急につまり、急性心筋梗塞になってしまうと安静時でも胸痛を生じます)。

参考 http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/disease/ischemic-heart-disease.html

 

 
それでは、なぜ「しゃがむ」と胸が苦しくなるのでしょう。「しゃがむ」って、座っているのとほぼ同様だから、「安静」ではないのでしょうか?

 
労作は、「静的労作」と「動的労作」に分けることができます。「静的労作」は、重い物を持ったり、しゃがんだり、という動きです。「動的労作」は歩いたり、階段を上ったり,という動きです。
「心疾患患者の学校,職域,スポーツにおける運動許容条件に関するガイドライン」によると、
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2008_nagashima_h.pdf

 
静的労作では,動的労作と同様に,心拍数及び血圧の上昇がみられるが,動的労作と比較して,血圧の上昇の程度が大きく,特に収縮期血圧だけでなく拡張期血圧の上昇もみられるという特徴がある.心疾患患者において特に注意すべきものは,静的労作である」

 
「荷物を持っての歩行やしゃがみ動作などの静的労作の強い動作では,階段の上り下りなどの動的動作よりも,血圧が顕著に上昇する」

つまり、「しゃがむ」行為は、一見安静にしているようにも見えますが、「静的労作」であり、血圧が上昇し、心臓に負担をかけることになるわけです。

 
ちなみに、血圧が上がる機序は、以下のように推測されています。
・下肢静脈圧排による静脈灌流増加→心拍出量増加
・下肢動脈・筋肉圧排による末梢血管抵抗増加
・下肢筋肉緊張による交感神経亢進
・腹部内圧上昇
 
この電気屋の男性の場合、「しゃがんで」作業をすることで、心臓に負荷がかかり、胸が苦しくなっていたわけです。歩行時と同様の心臓負荷になっていたのです。

 
「しゃがむ」ことは、このように、思いのほか、心臓に負担をかけることがあります。心臓に病気があるかたは、覚えておくと宜しいかと思います。
 
さらに、「前屈」すると、更に血圧が上昇するとこの記事には記載されています。
http://kajiro.org/kouketsuatsushoutaisaku/taisaku09/taisaku09_05.html
前屈姿勢では、頭部や顔に血液が鬱滞することが、血圧上昇に影響しているのではないかと、考察しています。再現性がある現象かは不明なのですが、この電気屋の男性は「しゃがんで」「前屈」して行う作業が多いのです。「前屈」も血圧上昇→心臓負荷→狭心症症状出現、に影響していた可能性があります。

この「前屈」と血圧の関係に関しては、初耳でした。
 

【参考文献】

「心疾患患者の学校,職域,スポーツにおける運動許容条件に関するガイドライン」日本循環器学会
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2008_nagashima_h.pdf
Blood Pressure in Squatting Posture Japanese Journal of Health and Human Ecology 40(1), 1-12, 1974
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshhe1931/40/1/40_1_1/_pdf