おはようございます。布施淳です。

前々回の記事(循環器救急患者の傾向)を書いていて思い出したこの本。随分前に読んだのですが、大変興味深い本でした。

 

 

病院に勤務する勤務医の仕事ぶりや、在宅医療に携わる医師らの仕事ぶりに関することを書いていて、この本の一節が思い浮かびました。

シリコンバレーでは、ハイテク関連の雇用増が地域経済繁栄の「原因」であり、医師や弁護士や屋根職人やヨガのインストラクターの雇用増はその「結果」」(引用)

 

医師は社会的ステータスが割りと高めな職業であり、かつてほどではないにせよ「先生」「先生」と映やされることが少なくありません。しかし、臨床医は世の中にイノベーションを起こすことは少ないです。人々の生活を大きく変えることは少ないです。地味な医療の発展には寄与するかもしれませんが、ごく些細なことに過ぎません。この本が指摘するように、地域経済の繁栄の中心になることは基本的にはありません。世の中を先導することはないのです。どちらかというと、受身の職業です。攻めることはあまりありません。世の中に生じた問題に対し、対応します。生じそうな問題を予測し対策を講じることはあっても、「攻め」というほどではありません。地味な労働者に過ぎません。

 

長い人間の歴史の中で医療は発展してきましたが、意外と人の寿命を著しく伸ばすような貢献度の高い医療行為や薬は少ないです。抗生物質やワクチンは多大なる社会貢献を果たしました。麻酔とか、避妊薬なんかも大きな貢献をしているでしょう。それよりもむしろ、水道や排水等を筆頭とする生活環境の整備、すなわち公衆衛生的なことの貢献が絶大でしょう。今の時代そして今後はITの医療に対する貢献が期待できます。医師よりもIT企業、IT技術者らの方が医療に貢献したりするわけです。医師が風邪薬を処方してもその貢献度はほとんどありません。臨床試験で有効性が証明された!と謳った薬、例えば降圧剤や糖尿病薬、高脂血症薬などたくさんありますが、それらの多くは、効果は微々たるものでありインパクトは小さいです。

 

また、かつては医療に関する知識や情報は医師の独占状態でした。それが、インターネットの発展もありそのような知識・情報に誰でも容易にアクセスできるようになってきました。特にインテリ層はそのような情報を得て、健康維持を図るような生活を実践しています。実践を促すウエアラブルデバイスの開発も盛んです。医師の業務をネット情報やITデバイスが肩代わりしているとも解釈できます。ネットでの情報も玉石混合であり、信頼性の低い情報に惑わされるなど新たな問題が生じていることも確かではありますが、大きな流れとしては、医療情報普及は、国民にとってメリットの方が大きいということに異論はないでしょう。

 

世の中の流れは速く、そして変化も著しく、一寸先が見えないほどの社会になってきています。これまで以上にイノベーションが重要な時代になってきています。一方で、医師の社会的ステータスは少しづつ低下してきています。医師バッシングやモンスターペイシェントなどがメディアを賑わせています。受身の職業である事、イノベーションを起こす事が少ない事、情報独占状態が崩れてきている事、なおかつ旧態依然とした業界である事、などがその原因の一つになっているかもしれません。

 

それでも、医師は、イノベーションを起こすであろう人々を含めた世の中の人たちの基礎となる「健康」に寄与し、社会を支えようとしています。病を抱える弱者の支えにもなっています。大怪我や重病に罹患して瀕死の状態になれば、頼られるのは病院であり医師です。年老いて、病に伏し、自宅で動けなくなった時にすがるのは医師による往診です。最終的なセイフティーネットでしょうか。人の人生において、肝となることに関われることもありますが、そうでないことも多いです。何れにしても、関われるのはごく一部です。主役にはなりえず、地味な脇役です。「先生」「先生」と言われて、いい気になっていてはいけないでしょう。医師は自分の今の業務が患者にどれだけ役立っているのか常に自問する習慣を持ちたいものです。自分達の役割や立ち位置を自覚し、謙虚な姿勢を持つことが必要かと感じる次第です。